友の会専用ページ 2021年1月
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ふなばし三番瀬環境学習館 友の会専用ページ 1月号
2020年カニ・ヤドカリ調査
みなさん、こんにちは。環境学習館の小澤です。
2020年は、2月のコロナ臨時休館で始まり、12月26日からのコロナ臨時休館で締めくくる、すごい一年になってしまいました。干潟の生きもの観察会は十分に行えませんでしたが、当館の念願だった「三番瀬100」をついに実現できたことは大変うれしい限りです。12/26からまたしても臨時休館に入ってしまいましたが、大部分は常設化する予定ですので、時期をずらしてぜひご覧ください。標本、植物、水槽、どれも自信作ばかりです。
さて激動の2020年でしたが、実はカニ・ヤドカリ調査的にも激しく動きのある一年でした。見慣れないカニやヤドカリがわんさか獲れたのです。今回は、そうしたカニやヤドカリをいくつかご紹介しましょう。
まずはイワガニ。赤っぽい甲に黄色や緑のしまもようが入る、美しいカニです。名前のとおり岩場にくらし、海浜公園のような砂干潟では本来あまり見られません。10月に、東の堤防で採集しました。堤防のコンクリートのすきまにはさまってかくれており、捕まえる道具をあまり持ってきていなかったので少し苦労しました。三番瀬で見かけたのはこれが2回目で、あのあたりに定着しているかもしれません。これで「イソガニ」「イシガニ」「イワガニ」というまぎらわしい名前をした三種のカニを見つけることができました。
つづいてのカニは、スナガニ。これは砂浜でくらすカニで、海水浴場のようになっているところでも見られるカニなのです。潮が満ちても沈まないあたりに巣穴をほり、夜に活動してくらしています。湾奥部の三番瀬海浜公園や葛西海浜公園では今までは見られないカニだったのですが、2020年の春から夏にかけてしばしば巣穴が見られ、11月のビーチコーミングにて友の会の方が死がいを発見しました。その後職員Uによって標本化され、「三番瀬100」で展示中です。過去のさまざまな生物調査や有識者に確認しても、三番瀬での発見記録は見当たりませんでした。
夏から秋にかけて、小学校の校外学習を行うたびに砂浜に見られる大きな穴、コメツキガニのそれよりも明らかに大きく高い位置にあり、なんとも不思議な穴を気にしていたのですが、きっと奥にはスナガニが昼寝をしていたのでしょう。死がい発見の前後から巣穴は見られなくなってしまったので、残念ながら定着はしていないものと思われます。北海道でも周年見られるカニなので、三番瀬で冬越ししてもおかしくはないと思うのですが……。
オオヨコナガピンノは、ツバサゴカイの棲管、平たく言えばゴカイの巣に共生するカニです。諸事情あり12月の真夜中にツバサゴカイ採集に行った際に発見しました。とても寒かったです。ツバサゴカイは三番瀬に多く生息するゴカイですが、やや深いところで見られるものなので、見られる時期や時間帯が限られます。オオヨコナガピンノもツバサゴカイ自身も巣である棲管から出てくることはなく、そもそも入り口はとても狭いので出ることは不可能に見えます。幼生のうちにオスメス1組のオオヨコナガピンノがツバサゴカイの棲管に入り込むそうですが、どうやってたどり着くのか、なぜ1組だけなのか、ツバサゴカイは嫌がらないのかなど、不思議なことの多いカニです。
カニと同じ十脚目に分類されるヤドカリも、2020年はいくつかの種が新しく見つかりました。特に4月から働き始めた職員Mが、イソヨコバサミとホンヤドカリという、イワガニと同じく岩場にくらすヤドカリを発見しました。どちらも岩場ではふつうに見つかるヤドカリですが、干潟で見つかるのは珍しいものです。
また、12月12日に行った「干潟の生きものを探そう」直前の下見では、やはり東の堤防近くで遊んでいたご家族から「ヨモギホンヤドカリ」というヤドカリをいただきました。転石帯でヤドカリを探していたらまぎれていたとのことでしたが、緑色の体色に赤い触角がおしゃれなこのヤドカリは、正式な発見記録が全国でも数えるほどしかないという、珍しいものでした。
このヤドカリの発見記録が少ない理由として、調査がしやすい春から夏にかけては砂の中でじっとしており(夏眠)、人々が干潟で遊ばなくなる冬になると活動するという生態があげられます。実際に、見られたのはとても寒い冬の朝でした。
三番瀬で見られるヤドカリたちは、企画展「三番瀬100」で展示中です。ヤドカリの見分けについては、飼育担当の職員に聞いてみてください。
どうして2020年はたくさんのカニやヤドカリが見られたのでしょう。カニやヤドカリは、卵からかえったばかりの「浮遊幼生期」に流されてくることで分布を広げます。また、イワガニやヨモギホンヤドカリの幼生が見られる時期は春から夏にかけてです。また、これらは湾央から外湾にかけては普通種です。
つまり、おそらく東京湾の中央から外湾から、春から夏にかけて流されてきたと考えられます。この時期に湾の中央部から湾奥に流れてくるには、東京湾の底を流れる水流にのってくる必要があります。普通はこの時期、東京湾の底は著しく酸素濃度がさがってしまい、幼生たちが生きていける環境ではないのですが、たまたま運よく生きてたどりつくことができたのでしょう。激動の大冒険の末、ということなのです。
このように、生きものたちは自然に分布を広げています。同じ場所で探していても、毎年違う生きものが見られるのは非常に面白いものです。2021年も楽しく生きもの探しをしていきたいと思います。
職員Mが船橋漁港で採集した2021年の干支、「ウシ」エビの写真で締めくくりたいと思います。それではみなさま、良いお年をお迎えください。