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友の会専用ページ 2020年2月

ふなばし三番瀬環境学習館 友の会専用ページ 2月号

桃太郎とボンゴレとアマガエル

「名は体(たい)を表す」とはよく言ったもので、「桃太郎」なんてのは、桃から生まれた男の子、ってことで桃男子、これすなわち桃太郎ってんですから、まさに桃太郎という名前が、そのまま桃太郎というキャラクターの実体を表しているわけです。「アサリとニンジンの彩りボンゴレ」なんてのも、「ああ、これはアサリとニンジンが入ったカラフルなスパゲティに違いあるまい」とすぐにわかってしまうわけで、ぼくはそうして「アサリとニンジンの彩りボンゴレ」という名前から「アサリとニンジンの彩りボンゴレ」の何たるかをよく理解した上で「アサリとニンジンの彩りボンゴレ」を作り始めたのです。

たいていの場合、生きものの名前というのは、まさに「桃太郎」や「アサリとニンジンの彩りボンゴレ」と同様に、その名が生きものの「体(たい)」、すなわちその性質や実体を表しています。つまり、名前をみただけで「なんとなくどんな生き物かわかる」ものが多いのです。

簡単な例を挙げると(なんでもいいのですが)、「ニホンアマガエル」ときけば「ああ、これは日本のアマガエルなんだな」とすぐわかるし、「クロダイ」ときけば「ああ、こいつは黒っぽい色のタイに違いない」とわかります。「ネズミキツネザル」ときけば、「ん? ネズミ? キツネ? それともサル?」と一瞬混乱しますが、冷静になって考えると「ああ、なんだ。ネズミみたいに小さいキツネザルの仲間だ」とわかります。

ところで、生きものの名前には、
・国や地域ごとの(もしくは言語ごとの)名前と、
・国際条約できめられた世界共通の「正式名称」、つまり「学名」
というものがありまして、一般的に、日本の動物図鑑などによく載せられているのは、和名(日本での呼び名)、英名(英語での呼び名)、そして学名(ラテン語)の3種類です。

そして「ニホンアマガエル=日本のアマガエル」、「ネズミキツネザル=小さいキツネザル」といった「名は体を表す」の傾向は、和名のみならず、英名、学名にも同じくみられます。 ちょいとためしに、ニホンアマガエルの3種類の名称について調べてみましょう。

和名(日本語):ニホンアマガエル(日本雨蛙)
英名(英語): Japanese tree frog
学名(ラテン語):Dryophytes japonicus

直訳すると、以下のようになり、同じ生きものを指す3つの名称が3つとも同じ意味を表していることがわかります。

和名:ニホンアマガエル(日本雨蛙) → 日本の アマガエル
英名:Japanese tree frog → 日本の アマガエル
学名:Dryophytes japonicus → 日本の アマガエル

「ニホンアマガエルの名前は、日本語でも、英語でも、ラテン語でも、『日本のアマガエル』。3つとも全部おんなじ意味だわい」 と、つぶやいたまさにその瞬間、おや? 窓の外に「炭のような色をしたはげ頭カラス」が飛ぶ姿が見えるではありませんか。

「炭のような色をしたはげ頭カラス」?
何それ? 怪しい鳥?
いえいえ、皆さんもよくご存じの、三番瀬によくいる、あの鳥です。

私の名前は「炭のような色をしたはげ頭カラス」

じつは和名、英名、学名の3つの呼び名の意味するところは、必ずしも「ニホンアマガエル(和)、Japanese tree frog (英)、Dryophytes japonicus (羅:ラテン語)=日本のアマガエル」のように一致するわけではありません。
ではカワウを例に、ここいらで三番瀬でよくみられる生き物たちの名前についても紹介すると同時に、「和、英、羅、3種類の呼び名それぞれの意味が一致しない生きもの」の例もみてみましょう。

いまぼくが「炭のような色をしたはげ頭カラス」と呼んだこの鳥は、黒色の大型の鳥。目は緑色で、クチバシは黄色です。三番瀬でもっともよくみられる野鳥のひとつで、1羽~数羽が堤防の上で翼をひろげて乾かす姿や、大きな群をなす姿をしばしば見かけます。
こたえは「カワウ」。
え? なんでカワウのことを「はげ頭カラス」なんて呼ぶの?

何を隠そう、この「変な呼び方」は、カワウの学名を直訳したものです。
ではカワウの和名、英名、学名をみてみましょう。

和名:カワウ(川鵜)
英名:Great cormorant
学名:Phalacrocorax carbo

和名のカワウは文字通り「カワ(川)のウ(鵜)」。
英名のGreat cormorantは、「Great (とても大きな) cormorant (鵜)」。
そしてラテン語(学名)の「Phalacrocorax carbo」はというと、前半の部分は、
Phalacro(はげ頭の)corax(カラス)」
ではどのような「はげ頭カラス」か? というと、Phalacrocoraxを修飾する形容詞は後ろについています。
carbo(炭のような色の)」
つまりPhalacrocorax carboを直訳すると「炭のような色をしたはげ頭カラス」となるわけで、これら和名、英名、学名をもう一度まとめると、

和名:カワウ → 川の鵜
英名:Great Comorant → とても大きな 鵜
学名:Phalacrocorax carbo → 炭のような色をした はげ頭 カラス

となり、それぞれ意味するところが異なっていることがわかります。
「はげ頭カラス」は、すなわちラテン語で「ウ」を指しますから、これをもう少しスマートに訳すると、「炭のような色のウ」となります。
こういった現象は、生きものの名前の世界ではしばしば起こっていることで、別におかしなことでもなんでもありません。国や地域、時代によって、その生きものの体(たい)=性質や実体のとらえかたが、異なるためです。

アマガエル
【ニホンアマガエル:日本のアマガエル(和)=日本のアマガエル(英)=日本のアマガエル(羅)】
並んだカワウ
【カワウ:川の鵜(和)=とても大きい鵜(英)=炭のような色のはげ頭カラス(羅)。写真:大谷雄一郎氏】

さて、3/20(金)から開催予定の春の特別展「ニン!ニン!ひがた忍者道場」は、さまざまな「忍術」を体験できる楽しいアトラクション展示。干潟の生きものたちが「師匠」になって、みなさんに忍術を教えてくれます。
 ということで、忍者にまつわる生きものの名前、何かないかな? と探したら、ありました。
沖縄、石垣島などにすむ淡水のハゼの仲間が、2017年に新種記載されましたが、その学名は、

Schismatogobius ninja

といって、名前の後半部分(種小名)に「ninja (忍者)」の文字がみえます。
前半部分「Schismatogobius」は、直訳すると「Schisma (分離した) gobius (小魚の一種)」となり、これは「エソハゼのなかま」の意ですから、「Schismatogobius ninja」とくれば「忍者のエソハゼ」と訳せます。

エソハゼの体には茶色や黒の模様があるため、じっとしていると川底の砂利にまぎれて見つけにくい。それがまるで忍者のようだとして、「スキスマトゴビウス・ニンジャ」と学名をつけた。(引用:朝日新聞)

とのことです。

春の特別展と潮干狩り展、あるいは「忍者ハゼ」と「フィリピンの粗いタペストリー」

さて、「はげ頭カラス」や「忍者ハゼ」についてあれこれと考えているうちに、なにやら香ばしいかおりがたちこめてきました。 「アサリとニンジンの彩りボンゴレ」が完成したのです。

ボンゴレパスタ
「フィリピンの粗いタペストリー」をつかったおいしいメニュー、「アサリとニンジンの彩りボンゴレ」。 4/21から開催予定の「これでばっちり!潮干狩り展」では、ほかにも「ふうかし」や「アサリの旨みスンドゥブ」、「たこ焼き風アサリコロッケ」等々、バラエティー豊かなおいしいアサリ料理のレシピを配布します! ご来館をお待ちしてます

せっかくですから、おしまいに、おいしいボンゴレの材料の名前についても調べてみましょう。

和名:アサリ(浅蜊) → アサリ
英名:Japanese littleneck  → 日本の 小さいくび
学名:Ruditapes philippinarum → フィリピンの 粗い(もしくは、精練されていない、未加工の)タペストリー(もしくはカーペット)

となり、アサリもまた、カワウのように、和英羅それぞれの呼び名で意味が違っていることがわかります。英名の「littleneck」、学名(属名)の「Ruditapes」は、それぞれ「アサリのなかま」を意味する語ですから、スマートにすると、「アサリ(和)、日本のアサリのなかま(英)、フィリピンのアサリのなかま (羅)」となるわけです。
いかがでしたでしょうか? ちょっとマニアック? なトピックでしたが、学名のしくみがなんとなくわかってくると、よく知らない生きものでも、学名を見ただけで、その「体(たい)」が想像されて、なかなか興味深いんです。
次に私が担当する回では、学名の成り立ちやルールなどについて、さらに面白い学名の例もできるだけ紹介してゆきたいと思います。
それでは、また学習館でお会いしましょう。皆様のご来館をお待ちしています。(薄井)

三番瀬ナウ
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